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2012年12月の3件の記事

2012年12月31日 (月曜日)

Super-Synchronous Transfer

先日のBi-elliptic transferに続き、これも今年の初めに計算・作図までして、お蔵入りになっていたネタ、今年中に公開しておきましょう。

低軌道(LEO)から静止軌道(GEO)への遷移には、遠地点が静止軌道と接する楕円(ホーマン軌道)の静止遷移軌道(GEO-Transfer Orbit, GTO)が使われることが多いです。GTOからGEOへ乗り換えるときに、軌道面の変更も行います。

もし軌道面変更がないなら、LEOからGEOへの変換は、軌道半径比が6くらいなので、ホーマン遷移がΔV最小です。しかし軌道面変更がある場合、Bi-elliptic transferのときと似て、いったんGEOより遠くまで行って、遠地点で速度が小さくなったところで軌道面を変えるほうが、合計のΔVが小さくなるケースがあります。これをSuper-Synchronous Transferと呼びます。

実際に、緯度の高いロシアからの静止軌道打上で、しばしばこの方法が採られています。単純計算ですが、ホーマンと、Super-SynchronousのΔVの損得を計算してみました。
仮に高度200kmの円軌道を初めのパーキング軌道として、その軌道傾斜(射点の緯度に相当)や、Super-Synchronousの遠地点半径を変えてみたところ、軌道傾斜角がおよそ38度より大きいとき、Super-Synchronousの方がΔVが小さくなることが示せました。

グラフなど、ブログ用に再構成するのが面倒なので、不親切ですみませんが、Mathematicaで計算したときの文書そのまま、下記に掲載します。計算式などは、その文中をご参照ください。

Super-Synchronous Transfer

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2012年12月21日 (金曜日)

マヤ暦

「マヤ暦」の終わりとされる日です。
これでマヤ暦便乗商品も滅亡です。投げ売りしなきゃね。
(終末はもっと先だった、という新解釈も出始めていますが。)

ところで、「マヤ歴」という誤変換が多いので、注意しましょう。

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2012年12月17日 (月曜日)

GRAILはBi-ellipticに近い遷移軌道

NASAの月探査機GRAILは双子の探査機で、日本の「かぐや」「おきな」「おうな」がやったように、月の重力場をさらに高精度で測定します。GRAILは当初ミッションに加え、延長ミッションも成功裏に完了し、本日17日の22時28分UT(日本時間で明朝、18日07時28分)に、月面に落下予定です。
公式サイト:Gravity Recovery and Interior Laboratory

1年前にGRAILが月周回軌道に投入成功した頃、ちょっと興味があって計算したネタがあり、ブログに書こうと思ったままお蔵入りになってたのですが、もう今日出さないと機会を逸するので、ご紹介します。

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NASAプレスキット「Gravity Recovery and Interior Laboratory (GRAIL) Launch」(PDF)より。

図1 GRAILの遷移軌道(©NASA)

GRAILが地球から月まで行く軌道の図です。GRAILは2機ペアで、赤と青で表されています。2組あるのは、打ち上げ可能期間の初日(Open)と最終日(Close)に打ち上げた場合の軌道で、打ち上げ日に応じてこの間の形をとります。この軌道、いったん地球・太陽間のラグランジュ点L1の近くまで行って戻ってくる、不思議な曲線になっています。
これはほぼ、「Bi-elliptic遷移」軌道ではないかと思うのです。Bi-elliptic遷移には日本語の文献が少ないのですが、とりあえず英語版Wikipediaはここ、
Bi-elliptic transfer
日本語の定訳は無いみたいですが「二重楕円遷移」「複楕円遷移」とでも言いましょうか。

Bi-ellipticを説明する前に、より簡単な「ホーマン遷移(Hohmann transfer)」なら、宇宙工学の基礎をかじった人はご存知かと思います。半径の異なる円軌道間を行き来する場合に、多くの場合にΔV(速度変化量、ひいては推進剤消費量)最小となる楕円軌道です。楕円の近地点が小さいほうの円軌道に接し、遠地点が大きい方の円軌道に接します。地球の低軌道から静止軌道へ移る、静止遷移軌道(GTO)も、軌道傾斜角を無視すればホーマン遷移軌道です。

ところが、行き来する円軌道の大きさが極端に違うとき、必ずしもホーマンがΔV最小とはなりません。円軌道の半径比が11.94より大きいときは、いったんもっと遠くへ行ってから戻ってきた方が、時間は非常にかかりますが、ΔVがホーマンより小さくなるケースも出てきます。これが「Bi-elliptic遷移」です。最初の円軌道をA、遠くの経由地をB、目的の円軌道をCとしましょう。

図2 Bi-elliptic遷移の模式図

  1. 円軌道A上でΔV1の加速をして、1つめの楕円軌道(近点がAに接し、遠点がB)に遷移。
  2. 1つめの楕円軌道を半周すると、遠点でBに到着する。
  3. ここでΔV2。Aの半径<Cの半径なら加速。Aの半径>Cの半径なら減速。2つめの楕円軌道(近点がCに接し、遠点がB)に移る。言い換えると、近点をAからCに変えている。B点が遠いと、ここで速度の絶対値が小さくなるので、近点変更のために与えるΔVが小さくて済む。
  4. 2つめの楕円軌道を半周して、近点でCに接する。
  5. 最後にここでΔV3の減速をして、円軌道Cに投入。

これを太陽周りの惑星探査機の場合、円軌道Aが地球の公転軌道、Cが目的の惑星です。土星の公転半径が9.55au、天王星が19.22auなので、途中でスイングバイなしなら天王星以遠へ行くにはホーマンよりBi-ellipticのほうがΔVが小さくて済むことになります。ただし何十年もかかる軌道なので、現実的ではありません。

さて、GRAILの話題に戻ります。
地球から月へ、Bi-elliptic遷移だったら、最初の図1のような軌道になるのでしょうか?概算ですがシミュレーションしてみました。はじめに地球回りで高度200km(半径6578km)ほどのパーキング軌道に入っていると仮定しましょう。実際のGRAILは打ち上げから直接L1方面へ向かっていますが、概算上はこれで仮定できます。軌道は2次元面内で、月の軌道は円軌道と近似します。月の軌道半径は約38万kmですから、半径比>11.94の条件を余裕で満たし、ホーマンよりBi-ellipticのほうがΔVが小さくなることが期待されます。経由地はL1と同じ距離150万km離れた点とします。本当は地球の重力の影響圏は約90万kmで、その外では太陽の引力が支配的になりますが、これも無視して地球の万有引力だけ考えます。そうするとこのBi-eliptic軌道は実際のGRAILとほぼ同じく約90日で月軌道に戻ってきます。GRAILが月に近づいたときの月の重力も無視します。こうしてGRAILを真似たBi-elliptic遷移を、アニメーションにしてみました。
Bi-ellipticクリックで拡大表示
図3 GRAILを真似たBi-elliptic遷移のアニメーション

最初の低軌道は小さすぎてこの解像度では見えていません。前半の楕円軌道は非常に平べったくなっています。左の図が慣性系から観測した様子で、図2に似ています。図3の右は、L1のある太陽方向を左に固定した回転座標系で見た物です。図1と似た形が現れましたね。図1の軌道が奇妙に見えたのは、太陽方向を左に固定しているため、座標系がゆっくり回転しているからです。飛行期間の約90日の間に、90度ほど回っています。細かいところの形が違うのは、前に述べたようなこのシミュレーションの近似や、実際のGRAILは途中で軌道修正することによると思われます。それでも、太陽方向固定座標系で見たBi-elliptic軌道が、近い形になることが示せたと思います。

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