満月の出は大きく見えるのか?
月や太陽が地平線に近いときには、仰角が大きいときよりも、視直径を大きく感じます。どの月齢でも起こる現象ですが、とくに満月は満ち欠けという意味でも大きいうえ、午後6時ごろに上るので帰宅中に目にすることも多く、「今日の満月は大きいなあ」と感想をもたれることが多いようです。
実際に、月の軌道が少し楕円なので地球との距離が変わり、近地点と遠地点とでは1割ほど見かけの直径が変化します。しかし、一晩のうちで上る時だけ大きく見えることの説明にはなりません。目の錯覚であることは確かなのですが、どの種の錯覚なのか諸説あります。有力な説は、「周囲にある風景との対比」「天球の形状を扁平に感じている」「色のせい」など。錯覚については、
The Moon Age Calendarというサイトの
Main >> Inquiry >> Moon FAQ
地平の月が大きく見える
というページの解説がお勧めです。
論より証拠。錯覚なら視直径を計測すればいいのです。簡単な方法として、5円玉か50円玉を持ち、腕を伸ばして穴から月を見てください。ほぼぴったり収まるはずです。これを月の出と、南中時に比較すれば、視直径が変わらないのがわかるでしょう。もうすこし定量的に証明するため、写真を撮ってみましょう。
これは私が今夜の満月を同じカメラ、同じレンズで撮影したものです。
同じ写真をTwitPicにも公開しています。
上の写真が、上ったばかりの20時ごろ。(電線が写っています)
画像上の直径は約306画素。
下の写真が、じゅうぶん高く上った23時ごろ。
画像上の直径は約309画素。
本当は焦点距離1000mmくらいほしいのですが、手持ちのズームレンズで最長側の200mmにして、画面の中央に小さく写った月を、本来の解像度のままトリミングしたものです。画像から直径を測定する精度は±1画素くらいでした。安価なデジカメでも、最大望遠にして三脚で固定すれば、月の視直径を比較できるくらいには撮れます。
この計測の結果、視直径はほとんど変化なし。
いや厳密には、むしろ逆に低空の月の方が小さいの?
これは誤差ではありません。地球の半径のせいです。日本あたりだと、地球半径×COS(緯度)=約5000km、月の出没時より南中時のほうが月に近いのです。このため視直径が最大で1%強、大きく見えます。肉眼ではわかるほどではありません。
@kazufukudaさんも同じ月を、もっときれいに撮影されています。
ところで、私が気になるのは、しばしば「低空での大気の屈折のため」という説を聞くこと。その原理では横方向に伸びる説明ができません。むしろ屈折による浮き上がり効果は低空ほど強いので、縦方向に縮みます。沈む夕日が横長につぶれて見えた記憶はありませんか。屈折説を唱える人は、思考だけでなく、いちど実測してみればいいのに、と思います。5円でできますから。
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コメント
ご無沙汰しております。
見かけの大きさ、
自分も昨年やってみましたので、どうぞ。
http://blog.syo-ko.com/?eid=686
投稿: rockecco | 2011年6月 7日 (火曜日) 18:15
ロケッこさんの写真でも、南中時のほうがわずかに大きいように見えますね。
投稿: ひらやま | 2011年6月 8日 (水曜日) 00:32
一昨日、快晴で満月がきれいでしたので、
実験(?)してみました。
やはり、南中の方がやや大きくなりますね。
やってみるとなかなかおもしろいです。
http://blog.syo-ko.com/?eid=1217
投稿: rockecco | 2011年7月17日 (日曜日) 17:24
twitterで宣伝ありがとうございます
昨日中秋の名月もきれいでしたので、撮影してみました。
投稿: rockecco | 2011年9月13日 (火曜日) 14:23
3日にこの見かけの変化による日食、
ハイブリッド日食が起こります。
是非ライブ中継等でお楽しみください。
投稿: rockecco | 2013年11月 2日 (土曜日) 21:08
ロケッこさん、ライブの情報ありがとうございます。
そういえば金環皆既日食も、この記事の現象が関係していますね。
投稿: ごんざぶろう | 2013年11月 3日 (日曜日) 16:32