伝染病の微分方程式
日本での患者確認、ドイツのニュースでも出ています。
Erste Schweinegrippe-Fälle in Japan bestätigt
Freitag, 8. Mai, 23:53 Uhr
Tokio (AP) Die Schweinegrippe hat jetzt auch Japan erreicht. Nach Angaben des Fernsehsenders HNK vom Samstag (Ortszeit) gibt es drei bestätigte Krankheitsfälle. Bei den Patienten handelt es sich um zwei Schüler und einen Lehrer, die ihm Rahmen einer Schülerreise Kanada besucht hatten, berichtete der Sender unter Berufung auf das Gesundheitsministerium.
Schweinegrippe erreicht auch Japan und Australien
Gestern, 04:11 Uhr
Tokio (AP) Die Schweinegrippe hat jetzt auch Australien und Japan erreicht.
(中略:オーストラリアの記事)
In Japan erkrankten zwei Schüler und ein Lehrer, die in Kanada unterwegs waren. Sie wurden nach ihrer Rückkehr nach Japan in einer Quarantänestation nahe des Narita-Flughafens in Tokio untergebracht. Die drei Patienten seien auf dem Weg der Besserung, teilten die Gesundheitsbehörden mit.
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医学の専門家ではないので、数学的な視点から考察をしてみます。
最近読んだ数値シミュレーションの参考書に、例題として伝染病の流行モデルが載っていました。単純化したモデルなので、現実はもっと複雑でしょうが、定性的には論じられるので紹介します。
x : Susceptible 感染する可能性のある者
y : Infected 現在、感染している者
z : Recovered 感染する可能性のない者(治癒して免疫をもつか、死亡した者)
x+y+z = 一定(考慮するコミュニティの人口)
t : 時間
a : 伝染係数
b : 除外率(治癒または死亡の時定数の逆数)
このモデルは、免疫性の病気の場合で、3つの状態のS→I→Rの順で遷移するので、SIRモデルと呼ばれます。免疫が効かない場合は、Rがなく、SとIの間を行き来するSISモデルを使います。
ちょいとシミュレーションしてみました。例を載せます。
人口は全体を1として無次元化しています。日本全体なら縦軸をおよそ「億人」と読みかえてよいでしょう。時間も無次元ですが、b = 0.1 としてますので、たとえば横軸を日付と考えて、時定数10日と見なしてください。a の値は、グラフの形が見やすくなるよう、適当に設定しました。かなり伝染力が強めのシミュレーションだと思います。
これは、最初の感染者数の影響を表しています。まずは初期値としての感染者をくい止めるというのは、日本の今のフェーズ「水際防衛作戦」に相当します。グラフは平行移動していますので、感染爆発を遅らせる効果があります。最初の増加曲線が指数的ですから、初期感染者の対数に比例した時間差で感染のピークに達します。限りなくゼロに近づけようと思っても、効果は対数的ですから、ある程度より先は費用対効果が指数的に悪くなります。それに爆発の規模は変わらないので、抜本的対策にはなりません。あくまで次のフェーズに対処する準備が整うまでの時間稼ぎです。いったん国内で感染が発生したら、外から入ってくる患者より、中で増える患者のほうが、すぐに多くなりますから、もはや検疫に力をいれても効果薄です。
次のフェーズへ行きます。ここまでは国の仕事、この先は社会全員の行動です。
伝染係数 a の値を変えてみた例です。感染者の増加は axy に比例、つまり x と y が出会う頻度と、感染のしやすさに比例します。伝染係数には、病気そのもののもつ感染力のほかに、外出頻度や、手洗い、うがい、マスクなどの行動方針も影響します。伝染係数に反比例して感染のピークが遅れ、山もなだらかになるのがわかります。実際に1918年のスペイン風邪のとき、学校の閉鎖や集会の中止の対応が早かったセントルイスと遅かったフィラデルフィアで、この曲線のような推移がみられ、犠牲者数が大きく違った事例があります。
感染爆発で恐ろしいのは、患者が増えすぎて医療が追いつかなくなったり、社会基盤も麻痺してしまうことです。そうなると a や b が悪化して、この単純シミュレーションよりひどい結果になるでしょう。最終的な累積患者数が同じでも、緩やかな山で発生すれば、パニックになりません。
第2式の両辺を y で割ると、y'/y = ax-b ですから、ax < b にできれば、感染者数 y は減少に転じます。この不等式で、左辺の伝染係数 a を下げるのは、個人の防衛努力です。右辺の除外率 b を上げるのは、抗インフルエンザ薬の早期投与など、医療機関に期待されます。
-----参考リンク
カムイスペースワークスブログ:Swine Flu(2009年5月2日)
検疫の意義と限界について、永田先生も同じ指摘をされています。
Fallen Physicist, Rising Engineer:伝染病の方程式(2009年5月8日)
SISモデルでの計算例です。
連山:数理科学からみたインフルエンザの脅威(1)(2)(3)(4)(最終回)
数理の専門家がSIRモデルの挙動について詳しく解説されていました。
ooyake:「社会活動の制限を要請する」新型インフルエンザ対策(2008年1月13日)
フィラデルフィアとセントルイスの比較グラフがあります。
MSN産経ニュース:【感染症と人の戦い】国立感染症研究所情報センター長・岡部信彦(2008年12月21日)
フィラデルフィアとセントルイスの教訓
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