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2007年10月 9日 (火曜日)

かぐや リレー衛星分離成功

かぐや(SELENE)のリレー衛星(RSAT)が分離に成功し、月周回軌道に入りました。
私も一時期、RSATに関わっていたので嬉しい。

本体に比べておまけみたいなRSAT、観測内容も画像系のセンサに比べて地味で一般受けしません。報道の扱いも小さいと思うので、ここでいかに凄いミッションかPRしておきましょう。

「かぐや」のミッションの一つとして、月の内部構造を探るため、重力場の精密測定を行います。これは地球もそうですが、天体の重力場は一様ではなく、わずかながら「むら」があります。重い岩石が多い地域では重力が強く、「かぐや」の速度がわずかに上がります。これを精密に測定するわけですが、目標精度はわずか秒速0.1mm。そもそも「かぐや」は秒速1.6kmで月を周回しますから、大きな速度変動の波に加わった僅かな速度の揺らぎを1千万分の1の精度で測定するわけです。速度の測定は、電波のドップラー効果を使います。目標精度の0.1mm/sは、光速度の3,000,000,000,000分の1ですから、ドップラーシフトの周波数測定精度は、Xバンドにしてもおよそ300分の1ヘルツ。
測定した重力場はルジャンドル陪関数の多項式としてモデル化されます。(宇宙工学の人は、摂動の「J2項」などで聞いたことがあるでしょう)その多項式の係数決定の目標精度が、うろ覚えですが100次くらいだったと思います。意外かも知れませんが、大気や海の影響がないぶん、月の重力場モデルのほうが地球より高精度に決められるそうです。
通常のドップラー観測は、地上局から発信した基準電波を、「かぐや」のトランスポンダで折り返し、地上で受信して周波数の変化を測ります。電波が往復するので「2-wayドップラー」と呼ばれます。子衛星のRSATやVRAD単体でも、2-way法を行います。過去のアメリカの探査機でもこのような重力場観測は行われたのですが、月の表側だけです。月の裏側を飛行中の信号は得られないので、裏側の重力分布つまり内部構造はほとんど分かっていません。
そこで「かぐや」ではRSATが活躍します。「かぐや」本体が月の裏側を飛行中は、RSATが電波を周波数変換して中継します。
(1)地上局→RSAT     (Sバンド 2.081GHz)
(2)    RSAT→かぐや (Sバンド 2.242GHz)
(3)    RSAT←かぐや (Sバンド 2.051GHz)
(4)地上局←RSAT     (Xバンド 8.456GHz)
4way-doppler
このように4つの電波リンクを行うので「4-wayドップラー」と呼ばれます。衛星設計コンテストなどで、50kg級小型衛星を設計したことがある人は実感が湧くと思いますが、このサイズの衛星では太陽電池で発生できる電力が限られるため、送信可能な電波の出力が小さいし、アンテナも大きくできないので、通信回線の成立はシビアです。これを4つリレーする、どこか1つが切れても成立しません。いわば、電波の綱渡りです。
さらに難しい点として、RSATが姿勢安定のため15rpmのスピンをするのですが、回転速度の乗らない中心軸には、上記経路(1)(4)の地上との通信アンテナが立っていますが、上記経路(2)(3)で使う中継用オムニアンテナは外周付近に設置せざるをえず、約700mm/sの周回速度を持ち、これがドップラーシフトに影響を与えてしまうことが予想されました。そこで、送信アンテナと受信アンテナをRSATのスピン軸に対して180度対向した場所に配置し、正反対の速度ベクトルを持つようにして、ドップラーシフトへの影響をほぼゼロにしています。しかしこれでも不十分で、上記経路の(2)(3)のRSATと「かぐや」間の電波の往復に平均0.02秒の時間がかかります。(RSATは楕円軌道なのでこの時間差はかなり幅があります) このわずかの時間にもRSATが平均1.5度ほど回転するので、180度対向したアンテナでもキャンセルしきれません。まだ平均10mm/s(最大で35mm/s)の速度が乗ってしまいます。ここから2桁低い目標の0.1mm/sを達成するために、信号を積分してスピンによる周期的な速度変動を除去するという、数学的な手法を使います。

このようにしてRSATは、かぐや本体が月の裏面を飛行中のデータを地球に中継します。そのため月の裏面を見る「手鏡」に例えられます。小さい衛星ですが、月の裏からのデータをリアルタイムで取得するのは米ソも達成していない、大きな一歩です。


公式サイト内のRSATとVRADの解説ページはこちら

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