風雲デブリ vs だいち (続報)
電話取材を受けました。
中国破壊衛星の破片、「だいち」軌道に接近(2/7 朝日新聞)
この機会に、本日の軌道要素(デブリは646個に増加)で計算し直したら、先週「高度差384m」と言っていた物体は、最接近でも40kmまで遠ざかっていました。思ったより変化が大きかったです。まだ軌道測定誤差も大きく、太陽光圧や空気抵抗による軌道の変化(摂動)に影響を与える[面積/質量]の値が個々のデブリについて未知なので、将来予測が難しい段階です。ですから「最も近づくのは何km」というのは、今日の軌道についての瞬時の値で、数日後には意味の無い数字になってしまいます。記者さんにもそれは理解していただいたうえで、記事に目を引くために使ってもらいました。
というわけで、中期予測としては個々のデブリの距離を見るよりも、群としての統計的な振る舞いで比較すべきです。本日のデータでは、10km以内で交差するもの18個、20km以内36個です。現在の軌道で固定(摂動を無視)して、確率的に計算したところ、交差のタイミングまで考慮して、だいちに10km以内までニアミスするデブリは、1年間に延べ37.7回という計算になりました。
比較のため、この衛星破壊実験が無かった場合について、ESAのデブリ環境モデルMASTERで調べたところ、直径10cm以上の物体が、だいちから10km以内をニアミスする頻度の期待値は年間1378回(2/10訂正)1737回もありました。つまり、この高度はもともと汚れている軌道なのです。だからといって、今回の衛星破壊ぐらい誤差だからいいじゃないか、とはいえません。もともと汚れているからこそ、ケスラーシンドロームに陥りやすく、注意深く保全しなければならないのです。
そういえば、デブリ対策を議論する国際会議IADC(国際機関間デブリ調整委員会)は、今年は4月23日~26日、よりによって中国(北京)で開催されます。波乱の予感・・・。
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追記:毎日も出た
<中国衛星破壊>破片が日本衛星に衝突・接近 年に38回も(2/7毎日新聞)
毎日新聞の科学記事は割と質がいいのだが、見出しに「衝突」は言い過ぎだろう。記事中の接近回数が「10km以内」という説明を入れてほしかった。
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追記:やっぱり、毎日の科学部の記者さんはがんばったのだけれど、編集過程で削られたらしい。これはお互いに残念でした。悪く書いてごめんなさい。
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コメント
今回のASAT実験前のデブリ環境でも、ALOSの10km以内を年間1000回以上も通過するのには、驚きました。
投稿: 歌島昌由 | 2007年2月 8日 (木曜日) 06:39
ウィキペディアで「ケスラーシンドローム」のページが、1月下旬以降、激しく加筆されています。「スペースデブリ」のページ以上。
更新履歴をみると、辛辣なコメントの応酬。これだけ書けるのはプロのデブリ屋の仕業だね。(私じゃないですよ)
旧ボスの著書や論文も、参考文献に挙げられています。
投稿: ごんざぶろう | 2007年2月10日 (土曜日) 14:27