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2007年2月 7日 (水曜日)

風雲デブリ vs だいち (続報)

電話取材を受けました。
中国破壊衛星の破片、「だいち」軌道に接近(2/7 朝日新聞)

この機会に、本日の軌道要素(デブリは646個に増加)で計算し直したら、先週「高度差384m」と言っていた物体は、最接近でも40kmまで遠ざかっていました。思ったより変化が大きかったです。まだ軌道測定誤差も大きく、太陽光圧や空気抵抗による軌道の変化(摂動)に影響を与える[面積/質量]の値が個々のデブリについて未知なので、将来予測が難しい段階です。ですから「最も近づくのは何km」というのは、今日の軌道についての瞬時の値で、数日後には意味の無い数字になってしまいます。記者さんにもそれは理解していただいたうえで、記事に目を引くために使ってもらいました。

というわけで、中期予測としては個々のデブリの距離を見るよりも、群としての統計的な振る舞いで比較すべきです。本日のデータでは、10km以内で交差するもの18個、20km以内36個です。現在の軌道で固定(摂動を無視)して、確率的に計算したところ、交差のタイミングまで考慮して、だいちに10km以内までニアミスするデブリは、1年間に延べ37.7回という計算になりました。

比較のため、この衛星破壊実験が無かった場合について、ESAのデブリ環境モデルMASTERで調べたところ、直径10cm以上の物体が、だいちから10km以内をニアミスする頻度の期待値は年間1378回(2/10訂正)1737回もありました。つまり、この高度はもともと汚れている軌道なのです。だからといって、今回の衛星破壊ぐらい誤差だからいいじゃないか、とはいえません。もともと汚れているからこそ、ケスラーシンドロームに陥りやすく、注意深く保全しなければならないのです。

そういえば、デブリ対策を議論する国際会議IADC(国際機関間デブリ調整委員会)は、今年は4月23日~26日、よりによって中国(北京)で開催されます。波乱の予感・・・。

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追記:毎日も出た
<中国衛星破壊>破片が日本衛星に衝突・接近 年に38回も(2/7毎日新聞)
毎日新聞の科学記事は割と質がいいのだが、見出しに「衝突」は言い過ぎだろう。記事中の接近回数が「10km以内」という説明を入れてほしかった。

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追記:やっぱり、毎日の科学部の記者さんはがんばったのだけれど、編集過程で削られたらしい。これはお互いに残念でした。悪く書いてごめんなさい。

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コメント

今回のASAT実験前のデブリ環境でも、ALOSの10km以内を年間1000回以上も通過するのには、驚きました。

投稿: 歌島昌由 | 2007年2月 8日 (木曜日) 06:39

ウィキペディアで「ケスラーシンドローム」のページが、1月下旬以降、激しく加筆されています。「スペースデブリ」のページ以上。
更新履歴をみると、辛辣なコメントの応酬。これだけ書けるのはプロのデブリ屋の仕業だね。(私じゃないですよ)
旧ボスの著書や論文も、参考文献に挙げられています。

投稿: ごんざぶろう | 2007年2月10日 (土曜日) 14:27

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» 中国の実験で生成されたデブリが地球観測衛星にニアミスしそうだ [Phinlodaの今日の戯言の裏ページ]
という記事が、 asahi.com で報道されていた。7日。 どれ位近づくのだろうか。 地球観測衛星「だいち」の軌道に南極上空で約1.4キロまで接近している ふーむ。 というか実感としてよく分からないのだが、 1.4キロも離れていたら衝突する訳がないというのか、 それとも物凄く近いのか? 私はデブリの話はプラネテス程度の知識しかなく、 完全に素人なのである。 報道で名前が出てきた、 九州大学の平山寛助手が、 「ごんざぶログ」というブログを書いている。 ここの内容が詳しいし、 もし... [続きを読む]

受信: 2007年2月 8日 (木曜日) 01:39

» デブリ回収って考えられないか [tmiura.notice]
[ごんざぶろう]: 風雲デブリ vs だいち (続報) 中国の衛星破壊実験によって発生したデブリが国際宇宙ステーションを含む低軌道衛星に対する脅威になっているという話題が続いている。 レーダーで捕らえられる10cm以上の物体はさしあたり早期警戒~回避って辺りが対策になろう。 衛星一つ、みたいな大物については一つ一つ捕まえて落とす技術をJAXAが研究している。 じゃあ、細かいのは? ... [続きを読む]

受信: 2007年2月 8日 (木曜日) 03:29

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