風雲1号Cのデブリと「だいち」の軌道関係
中国が破壊した風雲1号Cのデブリは、だいち(ALOS)の軌道と近い高度を飛んでいます。ともに極軌道で昇交点赤経が80度くらい異なっているので、両者の軌道面は北極と南極の上空で、ほぼ直角に交わります。したがって、衝突する場合の飛来方位は斜め前方45度くらいから、相対速度は軌道速度のほぼ√2倍の秒速10kmとなります。
さて、この軌道面が交差するあたりで、軌道はどの程度近づくのかと思い、Celestrakからダウンロードした、517個のデブリの軌道要素ファイルを使い、ALOSがデブリの軌道に最接近するときの、真近点角と高度差をプロットしてみました。
グラフ中央、高度差0の青線がALOS軌道を表し、右へ飛行していると思ってください。赤点はデブリ軌道がALOS軌道面を画面にほぼ垂直に貫く場所といえます。プロットしてある横軸の真近点角の8度の範囲は距離にしてほぼ1000kmです。クリックで拡大表示です。
北極上空
デブリの発生点に近い側なので、あまりばらけていません。もとの本体の軌道高度差177kmあたりに集中しており、ALOSに接近する軌道もほとんどありません。

南極上空
こちらは高度方向への分布が広がっており、ALOS軌道に接近する可能性のあるデブリもたくさんあります。最も近づく可能性のあるのは、国際標識99025EFのデブリで、高度差わずか384m!

誤解がないように言うと、このグラフは「点と点」の衛星間距離ではなくて、軌道の「線と線の距離」なので、交差するタイミングが合わないかぎりは大丈夫ですが、要注意。ここでプロットしてある517個というのは、地上から観測可能な、おおむね直径10cm以上の物。より小さいデブリも十分な破壊力をもっており、数はこの何倍も発生しているはずです。それら未発見デブリも、分布形状は上のグラフと同様になっているはず。ただし、摂動力のため、今後は時間をかけて分布が拡散してゆくでしょう。
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2月9日追記
spacewalkerさんがすばらしい可視化プログラムを作られました。
トラックバック参照
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2月10日追記
上の図で、517個のデブリをプロットしていますが、デブリの軌道周期は約6000秒ですから、平均して約12秒に1回横切るデブリがあります。したがって、あの赤点は「約12秒に1回、どれかが現れては消える」のが、より正しい認識です。幅数百kmの範囲に12秒ごとに爆弾が落ちてくる中を走り抜けるようなものです。
なお、2月9日に見たデータだと、デブリは約700個になりましたので、この例えは「9秒に1回」になります。
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コメント
恐ろしいデータですね。ところで、縦軸の単位はkmでなくmと思いましたが。もしこれらのデブリと衝突して被害を受けた場合、中国に損害賠償請求が出来るのかな。そのようなルールは、無いでしょうね。
投稿: 歌島昌由 | 2007年2月 2日 (金曜日) 08:04
歌島さん、コメント有り難うございます。おっしゃるとおり、kmとmを間違えていたので、さっそく図を差し替えました。
投稿: ごんざぶろう | 2007年2月 2日 (金曜日) 09:57
各国の偵察衛星の軌道も近いので危ないはず。
ニュースでは「米国は宇宙ステーションへの危険を懸念」と、きれい事を言っていますが、本当は軍事偵察衛星のほうが心配だろう。ISSの軌道はもっと低いので、上記の分布図で言うと下の端をかすめるくらい。
日本政府もALOSよりアレの方が心配なのでは?
投稿: ごんざぶろう | 2007年2月 2日 (金曜日) 16:53
中国もさることながら、冷戦期にはおんなじような事をやっている所もありましたし・・・
微小なデブリでも速度があれば、穴が開けられるだけの破壊力があるといいますからね。シャトルもISS軌道より上に行く事は(今は)あまり無さそうなので、確率的には低め(今後増す?)のあたりでしょうか。
投稿: モハE501 | 2007年2月 2日 (金曜日) 21:08
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2007032701000803.html
予定より早い寿命が来たとのことですが
デブリの影響もあるのでしょうか?
投稿: | 2007年3月28日 (水曜日) 01:41