事前に「空中捕獲」をPRしすぎていたためだろうか、多くのニュースが見出しで「捕獲失敗」と報じている。この表現が誤解を呼んでいないだろうか。
いくつかのwebページで、この事故の感想を述べているのを拝読させていただきましたが、ときどき「空中捕獲なんてするから失敗するんだ」「もっと確実な回収方法を」というような意見がありました。失敗への批判はごもっともですが、もしかして「空中捕獲に失敗したから地上に激突した」と、思っていないだろうか。
今回のは、確実な方法の第1段階である、パラシュートが開かなかったから激突したのです。ヘリコプターが空中捕獲を試みる以前の問題です。他の方法、たとえば逆噴射/エアバッグ/着水などでも、パラシュートが開かなかったら同じように激突するでしょうし、それぞれの方法に別のリスクもあります。
蛇足ながら再突入カプセルの空中捕獲は、少数ですが実績はあります。冷戦期に、スパイ衛星の撮影フィルムを回収した例があるのです。
この段落で書くことは、データが見つけられなかったので憶測なのですが、カプセルの設計にあたっては、たとえ空中捕獲が失敗して着地しても、最低限のデータは得られるようにしているのではないだろうか。(私が設計者ならできるだけそうする)。たとえば、サンプル収集ウェハーは割れてしまう恐れがあるそうだが、容器が無事なら地球物質でのコンタミは防げる。そして、空中捕獲は「確実」ではないが、成功すれば積荷にとってより「安全」な方法という位置づけだ。こういう場合よく「サクセスレベル」を事前に設定します。ミニマム・サクセスからフル・サクセスまで、何段階かに分け、たとえば、(実際どう設定されているか知らないので適当に例示します)
0:データも試料も得られず失敗
1:軌道上でのデータ取得成功
2:カプセルの回収成功(今回の達成度は2.1くらいか)
3:試料を回収成功(パラシュートで着地)
4:試料を無傷で回収成功(空中回収)
こんなかんじ。All or Nothig ではないのだ。
プレスキット(PDF)によると、空中回収時のパラフォイルの飛行速度は、水平方向12m/s、降下速度4m/s。回収しないでそのまま降下していたら、地上ではもう少し減速しているはず。参考までに、CANSATの降下速度は3m/sくらいで、着地時には壊れたり壊れなかったり・・・です。
さて現在、Genesisのwebをみたところ、カプセルはクリーンルームに運ばれ、粉々になって土砂が混ざったサンプルコレクターを、科学者たちがピンセットでより分けている光景がありました。希望的観測でしょうが、"Scientists are hopeful that the recovered Genesis samples will be sufficient to achieve the mission's science goals." と言っています。
宇宙ミッションで何か失敗があると、失敗のニュースだけが「○○百億円が無駄に」とセンセーショナルに伝えられ、このような、事故後のリカバリーの努力は、なかなかニュースでフォローされません。思い出すのが「きく6号」、当初予定の6割だか8割だかの実験を実施していますが、一般に知られていないようです。ほかにも、「かけはし」「ヒッパルコス」「アルテミス」・・・。そうそうESAの火星探査機 "Mars Express" 、おまけの小型着陸機 "Beagle 2" の失敗ばかりがニュースになって・・・母船は順調に観測をしているのにあまり国内報道で聞きませんねえ。
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追記
その後のニュースで、採集板はほとんど割れているけれども、容器の一部は無事で汚染を免れており、所期の科学的目的は達成できそう、とのこと。今回はちゃんと報道してくれたね。
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